荒七酒店(茨城県)
日本民藝館(東京都)
旧青山沈でん池(神奈川県)
ビアレストラン「クラストン」(岩手県)
酒船石遺跡(奈良県)
満濃池樋門(香川県)
大猷院廟奥の院(栃木県)
大阪府立中之島図書館(大阪府)
日本銀行本館(「旧館本館、東京都)
蜂須賀家万年山墓域(徳島県)
霊台橋(熊本県)
八幡神社石鳥居ほか(山形県)
大谷磨崖仏(栃木県)
仙台東照宮(宮城県)
阿弥陀三尊石仏ほか(京都府)
仏足石、仏足跡歌碑(奈良県)
保月六面石幢(岡山県)
日生京都三条ビル旧棟(京都府)
旧二本松藩戒石銘碑(福島県)
山王廃寺塔心柱根巻石(群馬県)
岩戸寺宝塔(大分県)
「仏足石」「仏足跡歌碑」日本に3つしかない国宝の石造物
 (法相宗大本山・薬師寺、奈良市)

―趣き異なる二つの古都

同じ古都でも、京都と奈良ではずいぶん趣きが異なる。京都の中心部は近代ビルが林立し、いかにも観光都市といった印象だが、奈良は観光開発が控えめで高層ビルも少なく、こじんまりしていて、むしろ古都の風情は京都以上に強く感じられる。2都市はお互い電車で30分程の至近距離にあるが、京都は新幹線1本で行けるという気安さが開発に拍車を掛け、本来の観光資源たる価値が落ちてしまったようだ。そんな背景を考慮しつつも、石材業者の皆さんには是非とも奈良を訪ねてもらいたい。ここに日本に3つしかない国宝石造物のひとつがあるのだ。

場所は名刹・薬師寺。第40代天武天皇が最愛の妻である皇后の病気平癒を祈願して、680年(白鳳時代)に藤原京において建立を発願。その後、完成を待たずして天武天皇は亡くなり、その遺志を継いで即位した皇后(第41代持統天皇)により698年(同)に薬師寺七堂伽藍が完成、後の平城遷都に伴い718年(奈良・天平時代)に現在地に移された。その薬師寺にある「仏足石」と「仏足跡歌碑」が国宝に指定されている。

―インドから巡り巡って…

この仏足石は、正面の高さが69センチメートル、天端の奥行き74・5センチメートル、幅108センチメートルほどの不規則な六面体の角礫岩。上面に線彫りの仏足跡の図と、周囲四面に銘文などが刻まれた「日本最古の仏足石」である。

仏足跡は、まだ仏像がなかった頃のインドで菩提樹や法輪などと同様に仏様の足跡を石に彫ってそれに祈りを捧げる習慣から生まれた。仏様を帝王に例え、その帝王が備えるべき7つの宝物を図で表し、仏の偉大さを強調したとされている。皆さんもご存知だろうが、上図のとおり中央部の千輻輪相文(輪宝)など瑞祥文七相からなる。外側5カ所からは各3本の光芒が出ているが、これは一説によると仏像の光背と同じ意義で付けられたものという。

そして側面の銘文には、東面(正面)に仏足石の由来と功徳、南面に図の系統と造顕の経緯、西面に造顕願文、北面には三法印が記されている。それを読み解くと、インドの鹿野苑(お釈迦様が初めて法を説いた場所)にあった仏足跡を、唐の王玄策が写し帰って長安の普光寺に置いたのを、さらに遣唐使の1人が写し、平城京の禅院に伝えた。それを天武天皇の孫が亡夫人の追善供養のために絵師に写させ、さらに13日間掛けて石手某麻呂らに刻ませ、753年(奈良・天平時代)7月27日に完成した、となっている。度重なるコピーの連続で何となく伝言ゲームのようで興味深いのだが、1度、インドにある大本の仏足石がどれだけ正確に伝わったのか、両者を見比べてみたい気がする。

―和製ロゼッタストーン

もう一方の仏足跡歌碑は、高さ158センチメートル、幅49・5センチメートル、厚さ4センチメートル程の黒味を帯びた粘板岩で、仏足跡を賛嘆した歌十七首と、呵責生死(現世の生死に迷う心を責め、成道を勧めること)を詠んだ歌四首からなる。全て万葉仮名の五七五七七七の仏足石歌体で刻まれており、その第十七歌を紹介すると、

於保美阿止乎 美爾久留比止乃 伊爾志加多
知與乃都美佐閇 保呂歩止會伊布 乃會久止敍伎久 

とあり、これを現代語に訳すと、

大御足跡を 見に来る人の 去にし方 
千代の罪さへ 滅ぶとぞ言ふ 除くとぞ聞く

となり、その意味は「仏足石を拝みに来る人は過去の長い間の罪までも消滅するという」となる。その見慣れた文字を見ると、今ある「漢字」がすでに1200年以上前の昔に存在していた事実に改めて驚かされる。これぞいわば“和製ロゼッタストーン”(エジプトで発見された紀元前の古代文字が刻まれた石碑=大英博物館所蔵)と呼べるものだろう。

なお現在、ユネスコの世界遺産にも登録されている薬師寺には東塔(国宝・白鳳時代)や金堂薬師三尊像及び同台座(同上)、聖観世音菩薩(同上)、東院堂(国宝・鎌倉時代)、四天王(同上)など鑑賞に値する文化財が多数ある。最近は大講堂の復元工事が遂に竣工した。同寺では毎月8日(薬師縁日)と第3日曜日に、また東京別院でも毎月11日、12日21日、22日にお写経会が開かれている。


◎薬師寺=奈良市西ノ京町457   
  http://www.nara-yakushiji.com
  取材協力:池渕石材工業(株)(奈良市)