プロフィール


石の彫刻家の






静岡県伊東市のアトリエ獏(ばく)に、そこの主、石彫家高橋朗さんを訪ねた。東京・町田市から約4年前に伊東市に住まいを移し、同時にアトリエも建設。今は元気な愛犬ハッチと一緒に、場所(空間・景観・人間等を含む)と石彫作品との関係について思いをめぐらす。

「(ある特定の)その場所に自分の作品がどのように機能するか。空間と、景観と、石彫作品と、そして人間と…、お互いの調和を求めるだけではなく、一種の違和感を持たせることも必要なこと。つまり作品をただそこに置いて、ハイおしまい。ではなくて、作品によってその場所に何らかの変化を起こさせたり意味付けをしたり、強調させたり。だから私にとって石彫作品は装置のようなものです。その場所における何かのスイッチですね」

例えば、静かな湖面に小石を投げる。すると波紋がザワザワと広がって行く。小石がスイッチになって、その場所(湖)に何らかの動きを与えている瞬間だ。高橋さんの言う『機能』を安易に例えてしまうと、そういうことになるのだろう。

石彫家と言うと、ギャラリー等の限られたスペースの中で個展やグループ展を開催し、作品を発表するというイメージが強い。確かにこれも大切なことだが、高橋さんの場合はその発表の場を広場や公園、ビルやマンション、病院に住宅展示場など…のいわゆる公共の場に求めているように思える。いただいた略歴を見ても、「○○展」という記述は驚くほど少ない。そのかわり1985年の聖蹟桜ヶ丘駅(東京・多摩市)再開発事業を皮切りに、現在まで約40箇所の建設・開発・造成事業にかかわっている。建築家や造園家とのコラボレーションである。

「作品を装置として機能させるには、その土地の持つ『記憶』を彫刻作品に取り入れることが大切です。まったく無関係なものを置いても、それはただのモノに終わってしまう。だから必ず現場まで行き、下見をし、調べ、その場所から自分が受け取るインスピレーション(=『土地の記憶』)をかたちにするように心がけています。そうすることで、場所と石彫作品が機能し合うんです」と高橋さん。機能し合うということは、それらが一体化しているということ。つまり高橋さんの作品はその場所そのものなのだと言うことができる。

ここでもうひとつ石彫家と言うと、自分の『かたち』にこだわる人が多いことを思い出した。しかし今までの話の中で、高橋さんのかたちはほとんど見えて来ない気がする。

「いわゆる自分を表現するための『かたち』には、あえてこだわらないようにしています。場所からインスピレーションを受けるためには、自分を常にニュートラルな状態に維持していたいからです。主体性がない、と言われることもあるんですが…」と苦笑い。でもそう言われると、『土地の記憶』を敏感に感じ取るためにあえて『かたち』にこだわらないその姿勢こそが、高橋さんのかたちなのだろうな、ととても納得できるのだ。そしてそんな高橋さんだからこそ、その場所に受け入れられ、機能し合える『かたち』をつくることができるのだろう。

問い「高橋さんにとって、石とは何ですか?」
答え「ウーン…野糞 」と大笑い。

言葉は悪いが、伝えたいことは分かる―「自分の移動したこん跡。しかもその場所にしっかりと立派に機能している」ということ。高橋さんは照れ隠しに冗談でごまかしたまで。そんなところからも高橋さんのお人柄がうかがい知れる。今日もきっとハッチと一緒に石に向かい合っているだろう。

◎高橋朗(自宅)
 静岡県伊東市八幡野1737-20
◎アトリエ 獏
 静岡県伊東市十足619-98
 TEL. 0557-45-2724