プロフィール


















石彫家宮澤泉さんのアトリエは300坪ほどの敷地面積で、現在さまざまなジャンルの作家8名が使用している。もとはアーチェリー競技場として使用されていた一部を平成9年に宮澤さんが借り受け、ひとりで草を刈り、仕事場として整備した。「草を刈って、それを燃やすじゃないですか。その燃え上がる火を見て、やっとここが自分の居場所になったという実感がわきました」と宮澤さん。その後、クラブハウスとして使用されていた建物も借りて、そこをギャラリーとして開設。「彫刻だけでなく、詩の朗読会や音楽会、さまざまなジャンルの作品展なども開催し、常に新たな発見ができて刺激のある場所にしたい」と話す。

ちょうどアトリエにお邪魔した日は『多摩のアトリエ 小品展』の開催期間中であった。宮澤さんを含め総勢26名のアーティストが、石彫作品だけでなく木彫、ブロンズ、テラコッタなどの作品を出品し、まさに宮澤さんの言葉の通りに刺激的な空間をつくり出していた。

「私は《彫刻》より《美術》と言う方が好ましく思っています。私にとって《彫刻》とはかたちをつくり出す行為ですが、一方の《美術》とは効果を含んでいるのです。つまり、その作品があることでまわりの事物すべてが新鮮で美しく見えてくる、そんな変化をもたらすことができたら良いなと思っています」と宮澤さん。「それはまるで剣術とか妖術とか忍術と同様に《美術》(=美しくする術)なんです」と笑って付け加える。

なるほど。でもなぜその忍術、いや《美術》に『石』を使用するのだろうか? 曰く「石は呼吸しているんです。言葉では表現できない水や光や音や熱などが、彫る人間と石との間で、移されながら整理される。だから私の場合は、石でかたちを表現するということは、石と呼吸することのように思えます」。

ん? ちょっと難しいかも知れない。

もう少し分かりやすく説明すると―宮澤さんは鑑賞者を美しくする《美術》を追求している。《美術》とは、鑑賞者がその作品によって自分自身の過去の思い出や経験、または実際に見た(あるいは夢に見た)景色やその時の感情など、さまざまな情景が引き出され、自然に整理され、ひもとかれ、次の活動に向かう状態が美しくなるという解釈である。宮澤さんはそれを「作品との対話」と言う。作品と鑑賞者との対話が尽きないほど、その作品はその鑑賞者を美しくしている。そして石は呼吸する。呼吸はすなわち対話の可能性を広げる機能である。石(作品)が吸い込んでは吐き出している色々な要素から、鑑賞者が無限の情景を引き出すことができれば、それがすなわち宮澤さんの追求する《美術》なのである。それを実現するためには石の呼吸する機能が必要不可欠になる、という訳である。

だから、宮澤さんは石に限りなく呼吸させることに努力する。作品をつくる時、その石と向かい合うと、自分自身の中でもさまざまな情景が色々なタイミングで浮かび上がって来ると言う。それらをすべて結び付けることで、その作品の完成を目指している。そしてその一連の作業が、石の持つ呼吸する機能を最大限引き伸ばすことになる。

「呼吸」だから、「言葉」ではない。だから作品のタイトルは『無題』とする。鑑賞者にメッセージを送るのではなく、作品と鑑賞者の無からの対話によって無限の情景を引き出させるエネルギーを石に込める。一見、難しい作風に思える。でもひょっとしたら、視点を少し変えるだけでとても分かりやすく、簡単に美しくなれる作品なのかも知れない。


◎宮澤泉(自宅)
 東京都杉並区高井戸西3-14-19
◎Atelier & Gallery I Z U M I
 東京都町田市小野路2295
 TEL. 0427-34-8036



※写真は上から、@アトリエで制作中の宮澤さん A現在八名の作家が使用するアトリエ B建坪約四十坪のギャラリー Cギャラリーでは「多摩のアトリエ 小品展」が開催中だった D作品『無題』。インド黒を使用 E作品『無題』。白大理石