東京の町田街道を高尾方面にひた走ると、意外にも作家のアトリエが散在している。その町田街道から1本外れた道ばたに4つのアトリエが集合していた。全面を青いビニールシートに覆われた外観からは、その内部で各作家が悶々と芸術活動を展開しているとは想像しづらい。以前、あるカルト教団が物騒な事件を連発していた頃、ここも「サティアンの疑いがある!」と、当局から立ち入り調査を受けたらしい。
そう、その1つがアトリエ「ノーム」なのだ。
この「ノーム」という名称そのものも、その教団のそれに似ていて、「やっぱり怪しまれても仕方がないのかなあ」とここで仕事をする石の彫刻家、小渕俊夫さんは笑う。実のところ名前の由来は単純明快、酒好きが集まったから「ノーム(飲む)」なのであった。このシャレが通じて(?)、サティアンの疑いはきっぱり晴れたと言う。「ノーム」は今、3人の石彫家の手により運営されている。ここで紹介する小渕さんと、佐々木至さん、三島雅裕さんである。その他の三つのアトリエは、石彫作家・木彫作家・ブロンズなどの鋳造作家が使用しているそうだ。
さて、小渕さんの紹介である。
「高校生の頃、僕は仏師になりたかったんです。宗教的な意味合いからではなく、なぜか仏像に惹かれていたんですね。もともと物づくりが好きで、特にモデリングではなくて、カーヴィングの方が好きだった。自然と彫刻の世界に没入して行った、という感じですね」
「素材に石を選んだのは、やはりその恒久性からです。何千年も前の石器や石の造形物が残っている。数千年後、僕の作品がひょっこり出て来た時のことを考えると、痛快じゃないですか。僕はあまのじゃくだから、そういうのがすごく嬉しい」と笑う。
石彫家にも様々なタイプの人がいて、思想的な要素からかたちを生む人、それとは逆にかたちの面白さ、楽しさから制作にかかる人などがいる。小渕さんはどちらかと言うと、後者だ。「パッと見て、それだけで分かってしまうかたちではなく、芸術に関心のない人でも何となく興味を持ってしまうようなかたちをつくりたい。かたちから入るから、タイトルを付けるのが困るんですよね」。抽象作品を手掛けるから、余計にかたちにはこだわりたい。
作品のテーマも変化している。以前は風や波をモチーフにすることが多かった。最近では『進化』に重点を置いている。「(苦手だった)理系の本を最近はよく読みます。その中で刺激的な言葉や現象を見つけて、それを掘り下げて、自分のかたちに表す。化石や古生物、生命の進化の段階などが刺激になりますね」と話す。
最後になって「石を彫り刻む段階で、実は僕にしか見えないものがあるんです」と小渕さんは話し始めた。それは『石の結晶』だそうだ。小渕さんは制作の段階でほとんど機械に頼らない。特に小型の作品はすべて手作業で仕上げる。手作業だから自ずと石材と向かい合う時間が長くなる。すると、例えば磨き作業でも、段階ごとに石の微細な結晶がまったく違った輝きや色を見せると言う。それは昼と夜でも違う。光線の微妙な変化によっても違って見える。自分のその時の感情によっても変化するだろう。
「でもその結晶の輝き、美しさの変化は、僕(制作者)にしか見えないもの。贅沢な仕事なんですよ、そしてそれが石の魅力ですね(笑)」
◎小渕俊夫(自宅)
川崎市多摩区菅6‐14‐3‐401
TEL044‐944‐6091
◎アトリエ「ノーム」
東京都町田市相原町4636−1
TEL.0427−82−1239 |
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第83回二科展出品作品「幼星のゆりかご」

第87回二科展出品作品「花石」
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