プロフィール







「石の魅力? うーん、それは石を割った時の一瞬の輝きかな…マブシイんですよ、すごく(笑)……石は生き物ですよね、気の遠くなるような歳月をかけて少しずつ成長している。その間、石の内部が外気に触れることはない。(原石を買って来て)僕がそれを割りますよね、そうすると石は何千年、何万年ぶりに外気に触れる、イヤ初めてかも知れない。その外気と触れ合った時の一瞬に、石は、輝くんです、眩しいくらいに。僕にはそう感じられる。それが石という素材が持つ一番の魅力でしょう」

今回紹介する石の彫刻家荻野弘一さんは、石彫家には珍しく農業にも携わる人だ。もともと生家が農業を営んでいて、必然的にその田んぼを受け継いだ。新潟と言えば、お米。そう、荻野さんはコシヒカリ(無農薬)を育てている石の彫刻家なのである。

「農業をしているから、自ずと大地とかかわり合いのある物が好きなんですね。石は大地、地球そのもの。地球の造形である石を使って、こんなちっぽけな存在の人間がまた何か創ろうとしている。それを仕事としている自分は幸せだなぁと思いますよ」

農業は大地を糧にし、大地に感謝する。石彫家としての荻野さんもまた、同じ大地を糧にして、同じ大地に感謝している。大地とともに生きているから、大地の匂いや温度、微妙な表情の変化にも敏感になれる。だから冒頭の言葉にある《一瞬の輝き》も見逃さない。とても荻野さんらしい表現である。

「農業は大地(自然)に向かってモノをつくる作業です。そこには無理強いがあってはいけない、あくまでも自然のリズムが基本です。自分の彫刻もそうありたい。意識を自然体にして石を彫りたい」

そう話す荻野さんが石を彫る時に一番気にかけていることは、「石と分かり合う」ことだそうだ。「人間の個性のようなものが石にもあって、その石といかに分かり合えるか、が創作のポイント」と言う。

そもそも、荻野さんが石彫を始めたのは十九歳の頃。専門学校に通って様々な素材を試したが、結局は石の《一瞬の輝き》に魅せられて、石彫家の道を選択する。専門学校を卒業してすぐにヨーロッパに渡り、スペインで一年、イタリアで二年ほどを過ごす。「特にカラーラ(イタリア)で学んだことの意味は大きかった」と荻野さん。「石のアーティスト」としての誇りや自信を、ひと回り大きくさせて帰国する。

しかし帰国後、しばらくは苦しい時間を過ごす。悶々としながらも、「もっと自然に、大地に根づいたものをつくりたい。新しさ奇抜さを求めるのではなく、石と分かり合うことが必要だ」という想いで発表した作品『電車ごっこ』(一九九〇)が予想以上に各地で好評を博し、以来「電車ごっこの荻野」と呼ばれるほどになっている。(今月の表紙は『電車ごっこ』シリーズ中の一作、二〇〇一年制作)

「石を彫ることはとても地道な作業です。長い時間をかけて取り組まなければならない。その間の対話で、自分と石が互いの性格を分かり合う。そうして初めて《自分のかたち》が生まれて来るんです。その作業を怠って、何か野心めいた気を起こすと、見事にその野心は砕け散る。それが石彫の面白さ、魅力ですね。だからやめられない」

ところで、荻野さんのコシヒカリ(無農薬)はどこで食べられるのだろう? 聞けば、首都圏コープと契約しているとのこと。きっと大地の温かいうまみが一粒一粒にぎゅっと詰まっているんだろうな、とアトリエ裏の田植え前の田んぼを見ながら思った。

◎荻野弘一
 新潟県北蒲原郡笹神村下福岡210
 TEL・FAX0250‐63‐8156