プロフィール


石の彫刻家の







彫刻家尾崎慎さんのアトリエは、石都岡崎の石工団地に店を構える鳥山石材店(鳥山和久代表)の工場にある。JR西岡崎駅から徒歩で石工団地に向かう道を進むと、右手に一番最初に目に飛び込んでくる巨大な観音像があって、そこが鳥山石材店。そしてその観音像の足もと周辺が、尾崎さんの仕事場になっている。

尾崎さんの作品は「半具象」。いわゆる具象彫刻に見られる人物像とは違う「人間」、しかも抽象彫刻にありがちな分かりにくさのない「人間」を表現している。言葉で説明すると分かりにくいので、作品の写真をご覧いただきたい。気取りのない、どこか親しみやすい「人間」を、尾崎さんはつくっている。

いまは亡きご両親が画家で、美術に対して幼い頃から自然に触れていた尾崎さんが石の彫刻家を目指し始めた10代後半の頃、浪人時代には予備校の先生に、そして多摩美大へ進んでからは教授にも、「おまえには絶対、石は無理だ」と言われ続けた。身長166p、体重53sの小柄な身体。周囲の声と同調するように、多摩美の1、2年生の時には「石の力に見事にはねかえされた」と言う。

現実を知り、少し挫折。それでも3年生で素材を選択する時に、あえて石材を選択した――まさに『挑戦』である。

「何とかしてやろう、体力的にも精神的にも石の強さに負けない自分になってやろう。石を彫ることができれば、自分の人生の中の大きな自信になる。そう思って挑戦しました」と尾崎さん。人知れず筋トレにも励み、大学4年生の頃までには見事な逆三角形の身体をつくりあげたと言うからすごい。

「大学・大学院時代は、本当に他人とは一切口をきかないくらい石を叩き続けました」

きっと、くやしさもあったし、何よりも石に、そして自分に負けたくなかったのだろう。しかもそうやって黙々と石を叩き続けるうちに、自然と集中力が養われ、精神面での強化にもなった、と言う。

大学院修了後、実家(豊明市)に戻り、すぐに石工団地内の石材店の協力を得て、アトリエを構える。そしてその約3年後、いまの尾崎さん独特の優しげな「半具象」の作風が生まれる。

「人間に内在している様々な感情、心の動きなどを抽出したい。シンプルなかたちでバランスを保ち、何かを表現することはとても難しいことですが、その中でいかに表現するかというのが課題です」

尾崎さんのつくる「人間」には目や口、鼻などがない。つまり顔に表情のない「人間」だ。

「目や口などを付けると、鑑賞者に表情を押し付けることになりますよね。無いと、その分、想像ができるじゃないですか。見る側が一歩入り込むことができるんです、『人間』の精神的な空間に」

それでも尾崎さんの作品は何だかとても分かりやすい。顔に表情はないけれど、ほとんどの『人間』は上を向いている。これは尾崎さん自身の「前向きに、健全に生きたい」という心の表れであり、鑑賞者へのメッセージでもある。だからだろうか、尾崎さんの『人間』を見ていると明るくなれる。何となく「明日への希望!」なんて言葉が頭に浮かぶ。

「石は強くて、しかもつくり手のその時々の精神状態などを映し出す力も持っている素材。ぼくは鑑賞者を飽きさせない作品をつくりたいと思っています。だから自分が楽しみながら、自然体でつくらないとダメ。石を彫る上で一番大切なのは『遊び心』。つまり体力と精神力が健全な状態にあること。その状態で石を彫って、鑑賞者の気持ちをズズズッと音をたてて動かしたいですね(笑)」


◎尾崎慎(自宅)
 愛知県豊明市栄町上姥子3-149
 TEL.0562-97-9160
◎アトリエ (鳥山石材店内)
 TEL.0564-31-6883

※写真の説明
1番上から、石に向かう尾崎さん
→作品「未来に立つ」(H60p)
→作品「絆がつくる風景」(H105p)
→作品「群衆」(H23p)
→鳥山石材店の工場を借りて制作する。後方に見えるのは鳥山社長の彫刻作品(1番上の写真のバックも同じ)