まずその名前―「横山大観」。1度聞いたら決して忘れない名前。だから、損も得も多い名前。
彫刻家横山大観さんとはずいぶん以前に1度お会いし、やはりそのお名前とごっつい体格が強く印象に残っていた。ちょうど9月に銀座で開かれた個展『横山大観展』で再会。「ではでは…」ということで練馬区の自宅兼アトリエにお邪魔することになった。
西武池袋線「大泉学園」駅から閑静な住宅街へ向かう。途中の神社で1礼―「いつもの習慣なんですよ」と横山さん。そのすぐ先がアトリエだった。家々にぐるりと囲まれて建つ横山家、その庭が仕事場だ。何本もの鉄筋が組まれ、敷地全体を覆うように白色のシートが張り巡らされている。高さは約5m、しかも5枚重ねのシートの中にはベニヤ板や発泡スチロールなどをはさみ込む。すべて手づくり。徹底した防音対策。ノミを打つ音は天上へと抜ける。
「ここでは大きな作品はつくりません。300sくらいまで。それ以上の作品は富山で制作します。すべて手作業で作品をつくりますので、それほど大きな音は出ませんが、念には念を入れています。近所の方のご理解もあって苦情は一切ないですね。逆に小学校の先生が生徒を連れて見学に来たりします」
そう話す横山さんも、当初はアトリエを求めて歩き回ったと言う。
「でもある芸大の先生に『石彫は情熱を持って、知恵を絞ればどこでも続けられるものだ』と言われたんです。外に仕事場を持とうと考えている自分のぜいたくさを思い知らされました。それで工夫して自宅をアトリエに使っています」
敷地面積は約70坪、たぶん東京区部でこれだけの広さのアトリエを自分のモノにしているのは横山さんくらいだろう。「逆に考えれば、ものすごいぜいたくなんですよね」と笑う。
横山さんは彫刻家を目指して造形大、芸大大学院へ進んだ。その間いままで、作品の基本的なテーマは変わらない―『核』である。
「最初は、生命誕生の瞬間、つまり精子が卵子(核)へ向かうイメージを表現したかった。人間の身体の神秘性のようなもの」。過去の作品は、すべてが中心(核)へ向かっている。それだけに強いエネルギーを感じるが、作品は次第に違う面も見せ始める。
「人間の生命的なイメージから、地球的規模での核へと変わりました。ぼくにとっては、石そのものも、地球なんです。だから石を使って表現しているうちに、地球そのものに目を向けるようになった」
そして最大の転機は、今年2月に約1カ月の日程で滞在したガラパゴス諸島への旅。ガラパゴス象亀との出会いである。
「ガラパゴスの原始的な風景や空気はものすごく刺激になりました。でも悲しいことに象亀は乱獲の時代を経て、絶滅の危機に瀕しています。彼らは何千、何億年という単位で進化してきて、きっとそのDNAには人間の愚行に対する記憶が組み込まれている。ぼくには彼らの目がとても威圧的に感じられました。人間はもっと根底的なところを、もう一度見つめなおさなければいけない、そんな想いが強まりました」
9月の個展でもガラパゴス象亀をモチーフにした作品が数多く並んだ。正直なところ、決して「かわいい」と言える亀ではなかった。悲しみや怒り、そして祈りの感情にあふれた亀であった。それらはすべて人間に対するメッセージ。「戦争なんていいじゃないか、もっと地球や生命の根本(核)を大切にするべきだ」という悲痛な叫び。
横山さんの作品は確実に大きくなっている。人間の精神に訴えかける何かを秘めていると感じた。
◎横山大観(大泉アトリエ)
東京都練馬区東大泉4-20-27 TEL.03-3924-6157
◎富山立体工房
富山県東砺波郡井波町山斐183
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大泉アトリエにて

銀座で開かれた個展

アトリエ兼自宅。防音のシートはすべてお手製で、雨よけもできる。

大泉アトリエの入口。両側に見える枕木を組み積んだものは“駐車場”。これももちろん手づくりで、アイデア勝ちだ。
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