プロフィール
















彫刻家鐵岩隆さんのアトリエ「スタジオひなた」は神奈川県伊勢原市の山間、日本三薬師のひとつ、日向薬師のすぐ近くにある。1994年夏に白地図を使ってようやく見つけ出したその約60坪の仕事場は、鐵岩さんにとって創作の場であるとともに、濃厚な自然と触れ合える大切な場所でもある。背後には大山(標高1251m)がデンと構え、すぐ下にはマスが遊ぶ日向川が流れる。時々、野生の猿の一群がアトリエ前の林を揺さぶり、イノシシがのそーと挨拶に来る。もとは荒地なので水道が通っていないのが難点だが、それもご愛嬌。作業用に使う大量の水は地主さんから拝借すれば良いし、普段は横浜市にある事務所兼自宅(鶴見スタジオ)から車で運べば事足りる。それより何より、ここにアトリエを構えてから、自身の作品に変化が現れたと言う。
 
「私の作品はもともとは《人間》が中心的テーマでした。石に《時間》(の流れ)を故意に刻み込んで、そこから人間の歩みを感じさせようとしていた。でもここにアトリエを構えてからは(自然界の)《生命》へと中心テーマが変わった。人間は自然とどう関わって生きて行くか、ということを表現したい」
 少し分かりにくいかもしれない。

つまりはこうだ――人間は今、他の生物が作り出したものを利用し、破壊しながら生きている。バクテリアなどが良い例で、彼らは人間の生活の基盤となるものを作っている。ただ最近はあまりにも人間本位になりすぎているのではないか。もっと人間から歩み寄るべきではないだろうか…。(鐵岩さん)

そんな想いを作品を通じて発信している。まさに、自然を肌で感じながら創作している鐵岩さんらしいテーマである。一段と説得力が増す。

聞けば、鐵岩さんは東京生まれの東京育ち。今までに「これほど強力なナマの自然に接したことはなかった」と言う。1994年に、まだ荒地だったこの場所を見つけた時には、カマ一本で生い茂る雑草を刈ることから始めた。「ひとりで朝から刈り始めるんです。一日かけてもたいして刈れない。夕方になって、朝刈り始めたところを振り返ると、もう草が伸びている。格闘でしたね」と笑う。

また、アトリエをめぐる人々との温かい交流も鐵岩さんの作品に影響を与えているのかもしれない。

こんな話をしてくれた。



――(林を越えた)向こう側にリハビリテーションセンターや大きな病院があって、よく患者さんなどが散歩に来る。ある日、ここまで来たご夫婦と色々と話をした。何カ月かが過ぎて今度は奥さんがひとりで来た。聞けば「主人は亡くなる直前まで、あなたの作品を気にかけていまして…」と言う。

「そんな時にもここの自然は、ただ黙って、じっとここにあるんですよね。正直言って、胸が熱くなりました」と鐵岩さん。自然の中での人との飾らない交流が、より強く自然界の生命に目を向かわせる。

ところで、鐵岩さんにとって『石』とは何だろう?

「石は先生、師匠です。よく『仕事が人間をつくる』と言われますよね。私は石彫をやっていて、石からたくさんのことを教わります。石を通じて、今の自分がある。教育されている感じです。また、先ほど、以前は石に《時間》を故意に刻み込んで…と言いましたが、今は石そのものが《時間》ということに気付き(造形言語)、あえてその部分は石に任せています。石との共同作業で、作品をつくっています」

◎鐵岩隆
鶴見スタジオ=横浜市鶴見区北寺尾5‐2‐22
TEL045‐584‐2379
スタジオひなた=伊勢原市日向字横道1544
http://www3.tky.3web.ne.jp/~te2/