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1999年春、国画会彫刻部が主催する第73回「国展」で快挙が起きた――初入選でいきなりの新人賞獲得、しかもその年に25歳になったばかりの青年が受賞したのである。それが実際にはどのくらいすごいことなのか、具体的には分からない。しかしある人物は声を大にして言った。
「これは快挙だ!」
この快挙を成し遂げた当時25歳の若者が、今回紹介する吉原周(よしわら・しゅう)さんである。現在は27歳、東京造形大学の研究生だ。本来このシリーズでは石彫家の仕事場、いわゆるアトリエにお邪魔していろいろと話を聞くのだが、今回はそんな訳で造形大学に吉原さんを訪ねた。
「ここに居るほとんどの学生と同様に私も大学に入学してから石彫を始めました。授業では粘土、木、鉄などの素材を一通り学び、私は『石』を選んだ。なぜなら、一作品に全力でぶつかることができるから。それだけ制作中は自己との闘いを強いられてとても辛いんですが、逆にそういう時間が好きなんですね」
現在取り掛かっている大きな作品二体を前にして吉原さんは開口一番そう話す。その幾分ストイックな言葉によって、吉原さんに対する興味がにわかにかき立てられた。何を隠そう取材したぼく(Y)と同い年なのである。細身の外見からはうかがい知れない内面的な厳しさ、奥深さを感じる。
吉原さんの作品には人物像が多い。それも動きや感情を感じさせるものではなく、立っていれば直立不動、座っていれば姿勢を正して、ただまっすぐ前を見つめているヒトだ。一昨年の国展で新人賞を受賞した作品「FEELING OF THE WIND」も、昨年の国展に出展した「夕凪」も、ともに人物像であるが、その二作品に登場する合計五体(うち上半身二体)のヒトはいずれも表情を崩さずに前方の一点をじっと見つめている。
しつこいようだが、その表情からは喜びや悲しみ、寂しさなどの感情は読み取れない。唯一、何事にも脅かされることのない、何か強くて、まっすぐな正直さみたいなものが感じられる。
「人間のフォルムにとても興味があります。外見的な形体のおもしろさに、内面的な精神性をプラスして表現したい。石は組織が緻密に凝縮されていて、その石の強さを借りれば、人間の意志の強さ、内面的な厳しさを表現できる」と吉原さん。きっと作品に表れる強さは、やはりそのまま吉原さんの自己に対する厳しさなんだろうなと妙に納得する。
彫刻には抽象的なものと、具象的なものがある。その区分けは非常に難しいそうだが、人物像を彫る吉原さんの彫刻はどちらか線を引いて分けるとすると、具象彫刻に入るようだ。そこで、吉原さんに聞いてみた。吉原さんにとってひとつの作品が完成するのはいつですか?――以下はその答え。
「もうその作品には手を加えられないという状況になって、それでも次のステップが見えた時が完成。それ以上は物理的・時間的に余裕がないから、やりたいけどやれない……。だから正確に言うと、完成ではなく未完成です(笑)。次の作品でもう一度初めから取組む。そしてその繰り返し。欲を言えば作品にはじっくりと二、三年かけたい。『石』と『自分』がより密度を濃くしてつながり合う。石はそんな時間や労力をすべて飲み込んでくれる素材なんです」
◎吉原周
自宅=神奈川県相模原市田名1814
TEL042‐761‐9544
◎東京造形大学
東京都八王子市宇津貫町1556 |