プロフィール


石の彫刻家の




岡山県「万成石」の丁場(虚sc石材店、浮田隆司社長)では現在、6名の彫刻家が創作している。半世紀ほど前には世界的アーティスト、イサム・ノグチが約10年間、制作の拠点にしていたことで知られる。今回紹介する作家、よしもと正人さんも「万成石」の魅力にとりつかれたひとりと言えるかも知れない。

「万成石は色がおだやかでしょう。他の石ではつくっていてもあまり楽しめない。自分の作品はほぼ100%万成石です。それだけ魅力を感じる石ですね」

よしもとさんと「万成石」との出会いは1993年にまでさかのぼれる。もともと岡山市生まれのよしもとさんはその年、岡山大学附属中学校の創立45周年記念モニュメントを制作した。その材料が「万成石」で、以来、そのおだやかな色に魅せられて、約10年前にこの丁場にアトリエを構えた。

「こうやって丁場にいると、いろいろな物事を考えたり、感じたりする。石のエネルギーもそう。ぼんやりと山を眺めているだけでも何かが違う。それだけ影響力は強いですね」

よしもとさんは、彫刻家と言うよりも空間デザイナーである。よしもとさんの言葉を借りれば、石の彫刻でかたちを表現することが好き、なのではなく、空間の中に石があるのが好き、なのである。石と空間との関係――そこに石を置くことで、その空間がどのように変化するか(どのように演出するか)。石はあくまでも要素であって、主役はその石と同じ空間にいる人。その人にいかに石のある空間を意識させるか――心地よく、自然に。しかもその石が「万成石」であればきっとおだやかな空間が生まれる。またよしもとさんは仏像を彫る仏師でもあるが、石仏を彫るのも、石仏がその空間に作用する力を重視しているからだ。

「最初は彫刻家になろうと決意して勉強していましたが、だんだん自分には単体(作品)で見せる才能がないことに気付いたんです(笑)。いまでは単体を見てもそれほど面白いとは思わなくなった。フォルムに興味がなくなったんです。それよりも空間をつくるという概念。石はそれだけでものすごい存在感を主張していて、それだけでもう景色になる。その大きな力を借りている、と言うわけです」

大学の彫刻科では主に金属を素材に学んでいた。卒業後は「尊敬する人は運慶」と話すように木彫をメインに創作を始める。と同時に、「野仏が好き」なよしもとさんは古い石仏を見て歩くようになる。

「道祖神などの古い石仏を見ると、みんな風化が進んでいて顔やかたちが分からないものもある。それでもその地域の人々に大切にされ、生活の一部にもなっているんです。アートには抽象、具象という区分がありますが、風化の進んだ野仏は本質が抽出され、抽象化されている。しかもその地域に根付いている。そう考えると、ひょっとしてアートよりも上なんじゃないか…そんな風にも思えるんです」

そして石仏を囲む空間は、きっと大学を出て自分の表現を模索していたよしもとさんには、とても新鮮でとても深く、心地よい空間だったのであろう。当然、仏像の本格的な勉強・研究も始め、99年に初めて石仏を彫り、2004年には石仏の個展も開いた。

「でもなんだかんだ言っても、こうやって万成の丁場にいると、石って本当は彫らない方が良いんじゃないかなって思うんですよ(笑)。石は山にあるときが一番ベストな状態で、つくることでだんだんと魅力を失っていくような…。だから無作為(つくらない)ということを、やってみたいですね」

とよしもとさん。最近では「万成石」を生活空間に取り入れようとする提案も行っている。きっと今日も丁場のアトリエで大好きな雲を眺めているだろう。



◎よしもと正人 ao工房
岡山県岡山市伊島町2ー5ー26ー301
http://www.aokoubou.com






よしもとさんが1994年から98年までの時間をかけて制作した「最上稲荷雲光殿裏岩盤彫刻」(部分、岡山市備中高松)。自然の岩盤をそのまま使用した大作(写真提供:よしもと氏)

雲に乗る
「如意輪観音像」
(万成石)













よしもとさんのアトリエと万成石丁場